福岡地方裁判所 昭和46年(行ウ)3号 判決 1974年7月25日
福岡県田川市東区古賀町三六八七番地
原告
丹村義治
右訴訟代理人弁護士
角銅立身
同
斉藤鳩彦
同市東区新町一一-五五
被告
田川税務署長
上村新吉
右訴訟代理人弁護士
国武格
右指定代理人
石橋国忠
同
大神哲成
同
井口哲五郎
同
伊東次男
同
脇山一郎
同
江崎福信
主文
一、原告の請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、請求の趣旨
1. 被告が原告に対し昭和四四年一一月一八日原告の昭和四〇年度分所得税についてなした確定納税額を金一四二万五二〇〇円とするとの決定および重加算税金四九万八七〇〇円の賦課決定をいずれも取消す。
2. 訴訟費用は被告の負担とする。
二、請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二、当事者の主張
一、請求原因
1. 被告は原告に対し、昭和四四年一一月一八日、原告の昭和四〇年度分の所得税につき総所得金額を四七九万四二二〇円(うち譲渡所得金額金四〇一万一七二〇円)としたうえで、算出税額金一四九万五〇五〇円から源泉徴収税額金六万九八〇〇円を差引いて確定申告納税額を金一四二万五二〇〇円とする決定および無申告重加算税を金四九万八七〇〇円とする賦課決定をなした。
2. ところが、原告には、昭和四〇年度において被告の主張するような譲渡所得はなかつた。そこで、原告は行政不服審査の申立てをしたところ最終的には、原告が福岡国税不服審判所長に対してした審査請求につき同所長は昭和四五年一一月二一日右審査請求棄却の裁決をし、原告は同年一二月八日右裁決書謄本の送達を受けた。
3. よつて、原告は請求の趣旨のとおりの裁判を求める。
二、請求原因に対する認否
請求原因1について 認める。
同2について 譲渡所得が存しないとの点を否認し、その余は認める。
三、抗弁
1. 被告は原告の昭和四〇年度分所得につき、確定申告納税額を一四二万五二〇〇円とする決定、および無申告重加算税を四九万八七〇〇円とする賦課決定(以下本件決定という)をなしたが、その算出根拠は次のとおりである。
2. 本税額一四二万五二〇〇円について
(1) 給与所得金額 七八万二五〇〇円
(2) 譲渡所得金額 四〇一万一七二〇円
原告は昭和三九年七月一日に田川市大字伊田字中無田一七二二番一、二の田五反一二歩(一五一二坪、以下本件土地という)を一坪当り八〇〇円計一二〇万九六〇〇円で訴外原田益雄(以下原田という)から買得し、その後本件土地を昭和四〇年二月二八日に五四〇万円で訴外二村工業合資会社(以下二村工業という)に譲渡した。ところで、被告が本件土地の譲渡所得の調査に着手した際、原告は本件土地は原田から金五四〇万円で取得したものであり、代金のうち、三四〇万円は支払つたが、残額二〇〇万円については、原田が訴外伊田農業協同組合(以下伊田農協という)に対して負担している二〇〇万円の貸金債務を自分が引受けることによつて決済した旨申し立て、証拠として金額三四〇万円の原田益雄名義の「領収書」と題する書面および原告・伊田農協間の当座勘定借越契約書とを提出した。しかし、原告は本件土地を代金一二〇万九六〇〇円で購入しているし、原田の伊田農協に対する債務を原告が肩代りした事実も存しない。次いで原告は、昭和三九年五月ころから同年八月ころまでかかつて本件土地の造成工事をした旨申し立て、訴外林工業合資会社(以下林工業という)と取り交わした代金四三〇万円の請負工事契約書を証拠として提出したが、その後更に右主張を変更して、本件土地造成工事については、当初林工業と契約したが同社の都合により契約先を合資会社水野組(以下水野組という)に変更して同社が造成工事を施行し、工事費四二三万五〇〇〇円は昭和三九年八月一〇日水野組に支払つた、右工事費の出所は、昭和二六・七年ころ、三井田川鉱業所から受領した二九〇万円の鉱害補償金である旨申し立てた。しかし、その後の審査請求の段階において原告は前言を翻し工事費の出所は伊田農協と東田川信用金庫(以下東田川信金という)からの借入金であると主張し、証拠として水野組名義の「領収証」と題する書面(田川市古賀町工場敷地約一五〇〇坪埋立並石垣工事金との記載があり、金額四二三万五〇〇〇円、発行日付昭和三九年八月一〇日のもの)を提出した。ところが、被告の調査によれば昭和二八年に鉱害補償金として二九〇万円が同鉱業所から原告に支払われたことは事実であつたが、右補償金は原告が当時田川郡大任村字今任において経営していた丹村鉄工所の鉱害にともなう鉄工所の移転工事費および附帯諸費として支われたものであるし、また原告は昭和三九年当時伊田農協と東田川信金とから借入はしていたが、原告が水野組に工事費を支払つたと主張する日である昭和三九年八月一〇日に原告は伊田農協に対しそれまで負つていた一九二万五一〇〇円の借入金のうち一八〇万円を返済し同日における借入金残高は一二万五一〇〇円になつている。右事実からすれば、原告が伊田農協からの借入金で工事費を支払つたとの主張は不自然である。また水野組名義の領収証と題する書面についてであるが、水野組がその当時四二三万五〇〇〇円を原告から原告主張の工事費として受領したとの事実は存しなかつた。被告の右各調査結果により被告は、原告は本件土地につき造成工事を施行していないと判断した。
とすれば、本件土地譲渡による原告の所得は次のとおり四〇一万一七二〇円となる。
540万円-(120万9600円+2万8680円+15万円)=401万1720円
(譲渡価格)(取得価格) (仲介手数料等)(特別控除額)
(3) 総所得金額((1)+(2)) 四七九万四二二〇円
(4) 配偶者控除金額 一一万七五〇〇円
(5) 基礎控除金額 一二万七五〇〇円
(6) 控除金額合計((4)+(5)) 二四万五〇〇〇円
(7) 差引課税所得金額 四五四万九〇〇〇円
(8) 算出税額 一四九万五〇五〇円
(9) (1)に対する源泉徴収税額 六万九八〇〇円
(10) 差引申告すべき納税額((8)-(9))一四二万五二〇〇円(一〇〇円未満切捨て)
3. 重加算税額四九万八七〇〇円について
(1) 原告は本件土地売買による譲渡所得を申告しなかつたばかりか、被告が本件土地売買の事実を知つてその譲渡所得無申告の理由を調査した際、原告は本件土地については造成工事を施行していないにもかかわらず前述2(2)のとおり被告に対し種々虚偽の申し立てをなした。したがつて、原告は被告に対し税額算定の基礎となるべき事実を故意に仮装したものであるということができる。
(2) 重加算税算出の根拠は次のとおりである。
原告の昭和四〇年度における納付すべき税額は前述2(8)のとおり一四九万五〇五〇円であるところ、そのうち重加算税の対象とならない税額は六万九八〇〇円である。したがつて、重加算税算定の基礎となる税額は一四二万五二五〇円となる。したがつて重加算税は四九万八七〇〇円となる。
四、抗弁に対する認否
2について 原告が本件土地を買得したのが昭和三九年七月一日であること、原告が本件土地に造成費用を投じていないとの点はいずれも否認する。
その余の事実は認める。
3について 否認する。
第三、証拠
一、原告
1. 甲第一ないし第一〇号証、第一一号証の一ないし四、
2. 証人林光雄、同吉川勇太郎、同河野純雄、同岡本保道、同原田通博、
3. 乙第一、第二号証、第四号証、第五号証の一、二、第六ないし第八号証、第九号証の一、二、第一一号証の一ないし四、第一二号証、第一七、第一八号証、第一九号証の一、二の成立はいずれも認める。その余の乙号各証の成立は知らない。
二、被告
1. 乙第一ないし第四号証、第五号証の一、二、第六ないし第八号証、第九号証の一、二、第一〇号証、第一一号証の一ないし四、第一二ないし第一五号証、第一六号証の一、二、第一七、第一八号証、第一九号証の一、二、
2. 証人瓜生保、同梯賢一、
3. 甲第一ないし第四号証、第七号証、第一一号証の一ないし四の成立はいずれも認める。第一〇号証については何びとが着色したかは知らないが、原図が字図であることは認める。その余の甲号各証の成立は知らない。
理由
一、昭和四〇年度において原告に譲渡所得があつたかどうかの点を除き請求原因事実は当事者間に争いがない。
二、そこで譲渡所得の有無について判断する。
1. 原告が本件土地を一坪当り八〇〇円計一二〇万九六〇〇円で原田から買い受け、その後の昭和四〇年二月二八日五四〇万円で二村工業に譲渡したことは当事者間に争いがない。
成立に争いのない甲第三、第四号証によれば原告が原田から本件土地を買い受けたのは昭和三九年六月二二日であると認められる。
2. ところで原告が本件土地を所有していた間に原告において本件土地に対し造成工事費四二三万五〇〇〇円を支出し、そのために原告に譲渡所得がないのではないかとうかがわせる証拠が存するので以下これを検討する。
まず、甲第七号証は注文者を原告、受注者を林工業とする土地造成工事の請負契約書としての体裁を備えているが、成立に争いのない乙第五号証の一、二、証人瓜生保、同林光雄の各証言によれば、少なくとも林工業が原告のため本件土地を造成した事実はない。
次に甲第八号証は水野組から原告宛の土地造成工事代金四二三万五〇〇〇円の領収証たる体裁を備えているので水野組が右工事を施行したか否かについて判断する。
(1) 成立に争いのない乙第八号証、証人瓜生保の証言によれば水野組が飯塚税務署に提出した昭和三九年度の決算書には昭和三九年度中に本件工事を施行したとの記載は存しなかつたこと、水野組作成の「建設業者登録申請書」と題する書面の添付書類である「工事経歴書」「直前二年の各事業年度における工事施行金額」とそれぞれ題する書面にはいずれも昭和三九年中に水野組が本件工事を施行したとの記載は存しないこと、水野組の資本金は五〇〇万円であり、昭和三九年一月一日から同年末までの間における工事施行金額は二三四七万五〇八〇円であり、昭和四〇年一月一日から同年末までの間におけるそれは一六二四万七四六五円であることがいずれも認められる。
資本金が五〇〇万円で年間の工事施行金額が二〇〇〇万円内外の会社において、工費約四〇〇万円の工事を決算書等の記録に書きもらすということは特別の事情がない限り考えられず、本件において特別の事情を認めるに足る証拠はない。
このように水野組側からみる限りにおいては同組が本件工事を施行したとうかがわせるものは何ら残つていない。
(2) そこで次に本件工事がなされたと仮定して、その資金の出所、裏付けがあるかどうかを考察する。
成立に争いのない乙第九号証の一、二、証人瓜生保の証言およびこれにより真正に成立したものと認める乙第一〇号証によれば、原告は昭和二八年八月から同年一二月までの間に三井田川鉱業所から鉄工所移転費の名目で二八七万円を受領していること、ところが右金員は昭和三四年ころ土地(田川市大字伊田字中無田一七一六の一の宅地)購入と建物(同市大字伊田字中無田家屋番号伊田第四三二の三)建築のために費消されていることが認められる。したがつて、右の移転費が資金の一部に充てられたとも認められない。
ところで、成立に争いのない乙第二、第七号証、証人梯賢一の証言によれば、原告は昭和三九年七月八日伊田農協と貸付限度額二〇〇万円の当座勘定借越契約を締結し、同月一〇日に一〇〇万円借り、同年八月八日現在で合計一九二万五一〇〇円を借りていたが同月一〇日には一八〇万円返済し残額は一二万五一〇〇円となつていることが認められる。右の事実からすれば、原告が伊田農協からの借入金で工事費を支払つたとも認めがたい。もつとも証人梯賢一の証言により真正に成立したと認める乙第一六号証の二によれば東田川信金作成の昭和四五年八月八日付の「証明書」と題する書面には、東田川信金が昭和三九年六月一二日原告に一九〇万円を工場敷地造成に使用するために貸与した旨記載されている。しかし、証人梯賢一の証言によれば、右一九〇万円の使用目的について東田川信金は右貸出当時の事実を確認のうえで右「証明書」を作成したものではなく、右の証明書発行の時点で原告の説明するところにしたがい前記の証明をしたものであることが認められるから、右証明書の記載によつて東田川信金の右貸出金が本件工事費に充てられたと認めることも困難である。
しかして、他に工事資金の出所をうかがわせるものは本件にはない。
(3) さらに、証人瓜生保、同河野純雄の各証言によれば、原告は二村工業の無限責任社員であること、二村工業は土木建設および自動車修理業者であること、本件土地に近接する田川市大字伊田字中無田一七一七番と同一七一八番の土地については二村工業が埋立工事を施行したがその際使用した埋立用土砂は林工業から無償で譲り受けたことがいずれも認められる。とするならば、本件工事は原告の所有している土地の埋立てであるから、通常の場合、前同様に原告が無限責任社員をしている二村工業に施行させてもよいはずであるが、全証拠によるも本件土地について特に他の業者に造成を施行させねばならないような事情はうかがわれない。
(4) 以上のとおり、原告が本件土地につき造成工事費を支出したとは認められない。してみると、被告が原告に被告主張のとおりの譲渡所得ありとしてなした本件課税処分は適法で何ら違法の点はない。
三、重加算税について
成立に争いのない乙第一、第四、第一二号証、前記乙第二、第一〇、第一六号証の一、二、証人瓜生保、同梯賢一の各証言によれば、原告は本件土地売買による譲渡所得を申告しなかつたこと、被告が本件土地の譲渡所得の調査に着手した際原告は本件土地は原田から五四〇万円で取得したものであり、代金のうち三四〇万円は支払つたが残額二〇〇万円については原田が伊田農協に対して負担している貸金債務を引受けることによつて決済した旨申し立て、その証拠として原田名義の三四〇万円の「領収書」と題する書面および原告・伊田農協間の当座勘定借越契約書とを提出したこと、次いで原告は本件土地につき造成工事を施行した旨申し立て林工業との間の請負工事契約書を証拠として提出したが、その後更に右主張を変更し、造成工事は当初林工業と契約したが同社の都合により契約先を水野組に変更して、同組が造成工事を施行し、工事費四二三万五〇〇〇円は昭和三九年八月一〇日に支払つた、右工事費の出所は昭和二六・七年ころ三井田川鉱業所から受領した二六〇万円の鉱害補償金である旨申し立てたこと、しかるに、その後原告は前言を翻し工事費の出所は伊田農協と東田川信金からの借入金であると申し立て証拠として水野組名義の「領収書」と題する書面を提出したことがいずれも認められる。
ところが前記認定のとおり、原告が本件土地につき造成工事費を支出した事実は存しない。してみれば原告が被告に対してした右各申し立ては税額計算の基礎となるべき事実を仮装する目的でなされたものと認むべく、他に右認定を左右するに足りる証拠は存しない。
してみると、被告が原告に対してした本件重加算税賦課決定処分も適法であり、違法の点は存しない。
四、よつて原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井野三郎 裁判官 知念義光 裁判官 加藤誠)